Q・コブが携帯しているコマにはどういう意味があるの?
A・夢か現実かを判断するために潜入者が所持するもので、劇中では「トーテム」と呼ばれる。トーテムは、持ち主が手触りや重量などに特殊な加工を加えているため、他人が作り上げた夢のなかではその特殊性が再現されず、したがってそれが夢であると区別できる。その特殊性を他人に知られてしまうと、夢/現実判断器としての機能を失うため、トーテムは他人に委ねてはならない。ドム・コブ(ディカプリオ)にとってのトーテムは鉄製のコマで、夢のなかでは永遠に回り続ける。回り続ければ夢のなか、倒れれば現実、ということだ。ちなみにアドリアネ(エレン・ペイジ)のトーテムは窪んだチェスの駒、アーサー(ジョゼフ・ゴードン=レヴィット)のトーテムは重いサイコロである。
Q・トーテムは他人に委ねてはいけないはずなのに、どうしてコブは妻モルのトーテムを使用しているの?
A・物語の中盤で、コブ愛用のコマはもともとはモルが使用していたものであることが明らかになる。コブにとって、このコマはトーテムであると同時に、妻の形見なのだ。「トーテムは他人に渡してはならない」というルールに反しているように見えるが、モルはすでに死亡しているため、コブがモルが作った夢のなかに入る展開はあり得ない。だから、故人の物品をトーテムに利用しても、問題はないということになる。
Q・結局、エンディングはどっちなの?
A・物語のラストで、自宅に戻ったコブは自分がいる世界が現実かどうかを確かめるためにトーテムのコマを回す。しかし、その結果を確認するより先にコブは子供たちのもとに行ってしまい、画面は暗転してしまう。つまり、夢か現実かの判断は観客に託されているのだ。
判断を観客に託されている以上、この問いに正解はない。それでも強引に正解を導き出すとすれば、「コブは目の前の世界を現実と見なした」となるだろう。
ただ刺激的なエンディングなだけに、夢か現実か、議論したくなるのが人間の性というものだろう。
ぼくの個人的な意見では、ラストは「現実」だ。1回目に鑑賞したときからそう思っているし、2度目の鑑賞でその意を強くした。
根拠は以下の三点だ。
1・コマがぐらつきはじめた瞬間、画面が暗転している
映画を見直してもらえれば分かると思うが、ちょうどコマがぐらつきはじめたところで画面が切り替わっている。明白な展開を描写せずに、省略してしまうのはノーラン監督の演出でよくあるパターンだ。「インセプション」のなかでも、リンボー界(虚無)から現実に戻る際、老サイトーが銃に手を伸ばしたショットの次に、飛行機のショットに移っている(夢のなかで死亡する描写を省略している)。
2・夢のなかなら、物語が成立しなくなる
もしコブがまだ夢のなかということであれば、現実のコブは飛行機のなかで眠ったままの状態であるはず。飛行機はやがてロサンゼルスに到着し、彼は嫌でも起こされる羽目になる。意識がリンボー界にあるまま体が目覚めると植物人間になる(正確には「頭がスクランブルエッグのようになる」)という設定なので、指名手配犯のコブは刑務所ではなく、精神病院に送られることになるだろう。「インセプション」は、「強盗映画」であり、その準備と決行がたっぷりと描かれている。しかし、エンディングが夢ということならば、その結果を説明せずに物語が終わってしまったことになる。コブはどうなったのか? チームはどうなったのか?
3・リンボー界のルールに反する
これが夢であるならば、コブはリンボー界にいることになる。しかし、「飛行機のファーストクラス」や「空港の手荷物受け取り場」、「自宅」はリンボー界には存在していなかった(自宅を模した世界はビルの屋上にあったが、すでに崩れ去っている)。リンボー界では、記憶を元に世界を作り上げることができるとされているが、かつてコブとマルが数十年に及ぶ年月を経て例の世界を構築したことを考慮すると、コブがあそこまで精巧な世界を即座に作れたとは考えづらい。
ただ、先にも述べたようにこの問いに正解はない(だからこそ、刺激的なのだ)。「LOST」のクリエイターの一人であるデイモン・リンデロフ(@DamonLindelof)はツイッター上で以下のような新説を提示している。
「There is a THIRD possibility -- It neither stopped... nor kept spinning. The story ended before either could happen. Discuss.」
(三つ目の可能性がある。コマは止まらず、また、スピンをし続けたわけでもない。物語はそのいずれかが起きる前に終わっていた、という可能性だ)
Q・妻のモルが自殺するとき、どうしてホテルの向かい側のビルにいたの?
A・手前のビルにいたら、コブに止められてしまうからじゃないでしょうか。
Q・サイトー(渡辺謙)は最初はコブのターゲットだったはず。どうしてそのあとで仲間になるの?
A・コブとアーサー、ナッシュの三人は、Proclus Globalの社長であるサイトーにエクストラクションを行うように、Cobol Engineeringから依頼される。Cobol Engineeringについては詳しい説明が行われていないが、おそらくProclus Globalから得た情報を、ロバート・フィッシャーの父が経営するFisher Morrowに売ろうとしていたのではないだろうか。しかし、前もってその情報を掴んでいたサイトーは、あえてコブのインセプションに引っかかり、コブの実力を確かめようとした(コブが金庫から取り出した書類の重要情報が塗りつぶされていたのはそのため)。サイトーの試験にパスしたコブは、フィッシャーに対するインセプションの仕事をオファーすることになった。
ちなみに、モロッコでコブを追ってきたギャングは、Cobol Engineeringが雇った連中だ。コブが任務を怠ったため、始末をしにきたのだと思われる。