予告通り、「インセプション」解説の第1回。夢のなかの仕組みや、“エクストラクション”や“インセプション”のプロセスの説明に入る前に、ストーリーのおさらいから始めたい。
今回の対象は、「インセプション」をまだ見ていない人だ。具体的には、興味はあるけれど、「なんだか難しそうだ」とか「理解できなかったら嫌だな」と、気後れしている人。そんな人が自信を持って映画館に行けるように、あんちょこのようなものを提供したいと思う。映画の核心部分には触れないつもりだが、多少のネタバレを含むので、まっさらな状態で映画を楽しみたい人はご注意ください。
「インセプション」のあらすじを、SF的要素を排除して書くと、こんな感じになる。
ディカプリオ演じる主人公コブは、一種の産業スパイだ。卓越した腕を持つコブには敵が多く、指名手配されているため母国アメリカにも帰ることができない。ある日、コブはサイトー(渡辺謙)という謎の男から、仕事の依頼を受ける。危険が伴うミッションだが、成功すれば過去の犯罪歴を消去し、アメリカに残してきた子供と再会できるように取り計らうという。かくしてコブは、ドリームチームを結成し、危険なミッションに挑むことになる。緻密な計画を立てたものの、決行中に思わぬ事態が発生。メンバーはそれぞれの能力を生かして即興的に対応するものの、やがて絶体絶命の危機を迎える。なんと最大の障害は、コブが抱えるトラウマだったーー。
さて、馴染みのあるパターンで安心してもらえたのではないだろうか? 「インセプション」は、「オーシャンズ11」のような犯罪映画のフォーマットに沿っているのである。じっさい、犯行に手を染める動機が、パーソナルな理由である点も「オーシャンズ11」と似ている(「オーシャンズ」の場合は、元妻を奪った男への復讐と、元妻との復縁だった)。
「インセプション」が普通の強盗映画と異なっているのは、以下の二点だ。
1・頭のなかが犯行の舞台である
「インセプション」が刺激的であると同時にややこしいのは、この舞台設定のためだ。これについては次回以降で説明する予定。
2・盗みではなく、仕込みが目的である
コブたちの目的は、物を盗むことではなく、物を仕込むことだ。言ってみれば、セキュリティ万全の金庫のなかに忍び込み、本物の紙幣のなかにニセ札を紛れ込ませるのが、彼らの使命である。この設定だけでもツイストが効いている。指輪の獲得ではなく、指輪の放棄を目的にした「ロード・オブ・ザ・リング」と似ているかもしれない。
さて、初回はこのくらいで。